第七話:『ポッペンとプッピンはお昼寝中』
ポッペンとプッピンはめずらしくお昼寝をしているようです。白いムクゲの花が まだいくつも咲いて風に揺れている窓辺でテレビの音もやみ、蝉の声もとんとせず、 扇風機だけが音もなくしずかに回りつづけています。うす青いワッフル地のワンピースをつけたまま眠っているポッペンとプッピンの顔のまわりを、 気だるい夏の終わりの午後の空気がそよそよと流れています。もうじき、あと30分もすれば ふたりのうちどちらかが起きだして、今までぐっすり眠っていたことなどけろりと忘れた子犬の ように、窓の外を駆け出していくことでしょう。
けれども今はもう少しだけ、もう少しだけ、このしずかなままでふたりをそうっとしておいて あげたいようにも思うのです。
足元に転がった小豆色の丸いカンカン。それにはかつてたしかにゴーフルという、驚くほど うすく焼いたおせんべいの間にバニラやらイチゴのクリームがはさまれたお菓子が入って いたのでした。 今、空洞となったそこには、塩辛い浜辺でひろったいくつもの白い貝がら、 ナツメの実、碁石のようにきれいな黒い石、それから海のむこうに住むポッペンとプッピンの 父さま母さまからの手紙などが入っています。
「夏休みの宝箱」と太インクで書かれたそのカンカンには、ほかにも青いセロファンに包まれた 砂つぶ――でしょうか?――や雑誌の切り抜きや、黒ずんだ金いろの小さな釘なども入って いるようです。
はためにはがらくたにしか見えないそれらのものひとつびとつが、ポッペンとプッピンにとって どれほどたいせつな宝物なのか、それらにいったいどんな不可思議な物語がかくされているのか、 私たちはほんの少しばかり知りたいと思います。
けれども、ポッペンとプッピンはただいまお昼寝中。
もう少ししたら、白いムクゲの花がぽとりと音もなく落ちて、夏の夕方のにおいが家中をつつみこむ でしょう。そうすれば、小さな子供のようにお昼寝している二人のどちらかひとりが起きだすでしょう。
それまであとほんの少し、ほんのすこうし……
(おしまい)