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第三十一話:『空色の染料の話』

「青空があんまり青いので空に梯子をかけて青を採集した人の話」という話を読ん でパタンと本を閉じたスマッフィーは、窓のそとをみやりました。
空の青はむらひとつなく、すっかり乾いているようです。
「もしもあそこを白いヒコーキが飛んだなら」スマッフィーは目を閉じて考えようと しました。
「そのヒコーキは地上におりたったとき、すっかり青色になっているのではないだろ うか」
 なぜならば、山奥の緑の中でみかんをつくっている人は土を土壌にした柑橘系の匂 いがするものだし、都会を歩いている人は都会の色に染まるものだし、水泳選手は魚 の顔に近づいてくるし、夢ばかりみている人はそんな顔になってくるから、というの がスマッフィーの理論なのでした。
「天文学者は天文学者の顔をしているし、時計屋の主人は時計屋の主人の顔をしてい る」と、なおもいいつのるスマッフィーに、ひとこと、「うーん」と言ったきり、プッ ピンは何か考えこんでいます。
「でもさ、空に飛んでるヒコーキは白で、ずっと白のままで、地上でも白だったんじゃ ない」とポッペン。
「あれは白ではない」スマッフィーは断言しました。「あれは銀白色で、空に対し武 装しているよ。なんといっても鋼鉄のメッキだからね」
 ――こんな会話の一部始終がどこから来ているか?
 記憶力の良い方なら教えてくださるでしょう、そう、この冬に開催される「全国手 作りヒコーキ大会」という、嘘なのか本当なのかオモチャの話なのか実物なのかわか らない大会、それがすべてのはじまりだったということを。ツギハギのクマのツィギー が今やヒコーキのりとしてどこかで訓練しているらしいということ、いえツィギーば かりか、先日はとうとう魔女子さんまでもが、花びらなのかヒコーキのつばさなのか わからない乗り物を制作して、白い手をオイルやスパナに染めていたことを。
 こんな空気がとうぜんのようにポッペンとプッピンの家にも伝染したのでしょう、 冒険好きのスマッフィーをして「鋼鉄製ではない、ひとつかろやかなのをつくろうよ」 といわしめたのも、仕方のないことなのかもしれません。
「色はまっしろでね、地上へおりたとき、青に染まっているかどうかしらべるのに都 合がいい」
「ええ、そうね」とプッピン、「そのためには軽やかなのが空に浮かぶことがまず先 ですけどね」
「浮かぶよ。ぼくはずっと昔、バグダードで……」
「スマッフィー、あなたはまず魔女子さんの家の本をぜんぶ読まなくてはね」とポッ ペンもいいます。
「でもぼくのあたまの中には、そりゃ綿しか入っていないかもしれないけど、ぼくは 昔バグダードで……」
 ――こんな部屋の喧噪はいちいちお伝えするまでもありません。いくら天才手品師 のスマッフィーだといっても、こんどばかりは何かひとこと言わなくてはとポッペン とプッピンもけんめいです。
「みなさん、ぼくはもしも落っこちたって、けがひとつしやしないんだ!」
 ついにこんな悲鳴のような声がスマッフィーの口から飛び出したとたんでした、 窓をコツコツとたたく音がして、ツバメ氏がまたひとつ、あたらしい手紙をもってき たようです。

(次号につづく)

 
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