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第三十話:『魔女子さんの大発明』

 ひさしく魔女子さんの姿を見ないので、(魔女子さんの家には電話も ファクシミリもありません。お手紙じゃなかったら家に直行するのが かくじつでしょう)アパルトマンの部屋を訪れたポッペンとプッピンと スマッフィーは、ドアを開けるなりビックリ仰天してしまいました。
 応接間兼食卓兼研究室の、大きくはない部屋いっぱいに広がっていた それは何だったでしょう。青紫色の花びららしきものが合計……八枚。
そうです花です、巨大に花開いた一輪の花です。でもこの花びらはたいそう めずらしい材質でできているようです。「シフォンでしょうか、これは?」 薄くて透けそうなやわらかな花びらにそうっと手をふれながらプッピンが つぶやくと、「そのとおり!」うれしそうに叫んだ魔女子さんが、その 巨大な花の中心からヒョイと顔をのぞかせました。きらきらした目をして、 白いほっぺたには油のしみみたいなものをつけて。右手にはスパナを握りしめて います。そういえば部屋中にペンキやニスの匂いがぷんぷんしています。
「いったいそんなとこで何をやってるんです!」「魔女子さん、これは何なの?」
「しばらくお会いしないと思ったら……」口々につめよる皆の顔をにっこりと 見渡して、「これですか? わかりませんか?」と魔女子さんはほほえみました。
巨大な花の下に、二つの小さな車輪がついているのをスマッフィーはみとめました。
「車だ!」「レーシングカー」「遊園地の乗り物!」「舞台装置!」
「ちがいます! なんです舞台装置って」魔女子さんは笑っています。
「これはヒコーキですよ」
「なんだって?」ヒコーキですって? 一同はシーンとしました。その後で大きな 笑い声が部屋中にひびきわたりました。
みんなちっともおかしくなんかなかったのですが なぜだか大笑いせずにいられなかったのです。きっと笑いというものは、おかしい ときだけに出てくるものではないのでしょう。
 つまりこのヒコーキにはプロペラがありません、つばさもありません、ガラス窓も 何もありません。これはどうみてもただの花です。巨大な、一輪の花です。
「エンジンは?」スマッフィーが聞きました。
「これからそれは借りるの」いとも簡単に答えが帰ってきました。
 そうです、魔女子さんはこの自作のヒコーキで、近々行われる「全国手作り飛行機 大会」に出場しようというのです。
「ホウキに乗るなんて、古い古い」つね日頃よりそう言って物理学の本に読みふけっ ていた魔女子さんです。おそらく航空学も勉学して、真面目な気持ちで空を飛ぶこと に立ち向かっているに違いありません。
「この花、鉄線みたいだね」
「クレマチスともいうね」
 二人の女の子とスマッフィーは、巨大な花型ヒコーキにいつまでもみとれているの でした。

(おしまい)

 
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