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第二十八話：『スマッフィーの黒手帳』
最近、ポッペンとプッピンの周囲で起こった二つの事件が あったかと思います。ひとつはポッペンがよそ見をして歩いて いるときにシャボン玉が飛んできてポッペンに話しかけたこと。 もうひとつはあの頼りない子供だったツィギーが、旅に出たきり 連絡がプツリと途絶えたと思ったらなんと、いったい何があったのか 「飛行家」になったらしい、ということです。
で、この二つの＜事件＞にはどこか共通点がある、と考えたのは スマッフィーでした。ポッペンとプッピンの家に居候中のこの手品師は おそらく自分の身のまわりに手品よりもわくわくすることが起こった ので、いてもたってもいられなくなったのでしょう。いつも持ち歩いて いる黒い古めかしい手帳を開いて、何やら熱心に書きこんでいます。 その手帳はなんでも手品のネタがぎっしり詰まっているとかで、一度も 他人に見せたことのない、秘密めいたものです。その手帳から顔をあげて スマッフィーがまた質問を始めます。
「シャボン玉から聞こえた声とおっしゃいましたが、ポッペンさん、 なぜその声がシャボン玉からきこえたとお思いなのですか？」
「それは、そのときまわりに誰も何もいなかったからです」
ポッペンはもう何べんとなく繰り返される質問にうんざりしながらも、 スマッフィーの声の真剣さに思わず引き寄せられてそう答えます。
「で、シャボン玉の中に何か物体をあなたは認めたのですか」
「ええ、何か認めたようにも思いますが」
「いったいどんな？」
「ですからそれは、何か可愛らしい感じのするものです、元気のいい すばらしい感じのするものです」
「ポッペンさん」スマッフィーはためいきをついて言います。
「『感じがする』では困るのですよ。なぜって『感じがする』のは お腹がすいたとかヤキモキするというのと同じで、それが本当かどうかは 他の人にはわからないからです。それで、本当のことというのは、もっと 簡単なはずですから、見たか、見なかったかというのでいいんです」
「ですから、見たと申しあげているのです」
「で、何を？」
「ですからそれがわからないというのです。もう一度見たらはっきり することです」
スマッフィーは再びためいきをつきました。「では、質問を変えましょう」 「そのシャボン玉の中の人物とは、先だっての飛行家ツィギーではあり ませんか？」
「断じて違います、ツィギーはあんなに小さくなかったと記憶しています。 それにツィギーはツギハギです。あれは、わたしの見たものは、ツギハギでは ありませんでした」
「ツギハギでないとすると、どんなでしたか」
「ですから、ツギハギでない何かです。何か素敵な感じのするものです。 あ、別にツギハギが素敵ではない、といってるわけではありませんよ」
これでスマッフィーの黒手帳はまたしても行き止まりです。
そのとき、どこかからあくびの声がきこえました。
「でも、そういえばツィギーもシャボン玉も、空を飛ぶという点では同じ ものですね」
その声の主はプッピンでした。プッピンは夜おそくまで白い毛糸の帽子を 編んでいたので、今朝は眠くって仕方がないのでした。白い毛糸帽はツィギー にプレゼントするためのものです。空の上はとても寒いと聞くから、と。
そんなプッピンを、スマッフィーは驚いてみつめています。
「そうなんだ、そうだったんだ、ぼくが言いたかったのは。ほら、その通り。 どちらも空を飛ぶもの、ということだったんだ……」
どうやらスマッフィーの手帳には新たなページが加わりそうです。
（おしまい）
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