第二十六話:『シャボン玉が通りすぎていった話』
雨あがりの朝、ひさしぶりに青みがかった光が表通りをキラキラと まぶしく染めている中を、ポッペンは一人で歩いていました。「ああ、きもちがいいな」ところどころまだ水滴が光っている道路も、 無数の木もれ日をふりまいているプラタナスの木々も、そして何より 白い雲にふちどられた空も、たっぷりした水をくぐりぬけた後でいっそう さえざえとした見事な色にかがやいているかのようです。
「あんな青い空の色のセーターがほしいものだなあ」
ポッペンがふとつぶやくと、「ホイッ!」いきなりかけ声がきこえて、 それと同時に空から青いセーターがぽつん、と落っこちてきたではありませんか。
それがまた、まるで青空の表面を一枚ぴらりとはがしたかのような、 つやつやした空とまったく同じ色でありながら、ポッペンの大きさに非常にぴったり したセーターなのです。ポッペンはきょろきょろと周りをみわたしましたが、 誰の影もありません。
「へんだなあ」お日さまのいい匂いがたっぷりしみこんだ 青いセーターと空をかわるがわるポッペンは見比べていましたが、やがて 思いついたように歩きはじめました。
「そうだ、もう一度言ってみよう。 えーっと、こんどはあんな白い雲みたいなふわふわした帽子がほしいよ!」
――ところであたりはシーンとしずまりかえっていて、もちろん何事も起こる気配 はありません。なんだかこわくなってしまったポッペンがあわてて家に帰ろうと すると、どこからかシャボン玉がぷわぷわ飛んできて、
「さっき、きみがよそ見をしていた角度がたいへんよかったということさ。 よそ見をしていればいいっていうものじゃないのさ。もちろん前ばかり見ていると 何も見えないのさ!」そんな声が一瞬のうちに聞こえてきたのです。シャボン玉の中 で両足を踏んばっている、とても小さな、あれは何者でしょう?
「ちょっと待って!」ポッペンは走ってシャボン玉の後を追いかけようとして、 パチン! ――シャボンがはじけて、何もかも消えてしまいました。
それが、「シャボン玉のエルフ」――これから先、ポッペンとプッピンのまわり にたびたび登場してくることになりそうな不思議な小人――との 最初の出会いだったのです。
(おしまい)